2008年04月26日

第122回九州地区高校野球大会 県勢の戦いを振り返る




4月19日から5日間の日程で行われた第122回九州地区高校野球大会 (春季高校野球
九州大会)は福岡工業の優勝で幕を閉じました。2回戦からの登場となった沖縄県代表の
浦添商業は、3試合を勝ち上がりましたが決勝戦で福岡工に完封負けで準優勝。また、セ
ンバツ優勝校で今大会は推薦出場の沖縄尚学は初戦の2回戦で福岡工に惜しくも僅差で
敗れました。ともに同じ相手に敗れた訳ですが、 両チームともに夏までの課題と手応えが
掴めた価値ある大会だったと思います。


------------------------------------------------------------------------

浦添商は県大会決勝からチャレンジマッチにかけてチームの状態が非常に上向いた形で
今九州大会に挑みました。 大会に入ってからも、 その好調さを維持して初戦の熊本国府
戦を 8-0の7回コールドで勝ち上がると、 次戦の準々決勝でも 名門・樟南に8-4で快勝し、
準決勝ではセンバツ出場校の鹿児島工相手にエースの伊波が12奪三振の完封劇を演じ
て見事決勝戦へ駒を進めました。 大会前から優勝を公言していた同校ですが、九州各県
の強豪校を相手に圧倒的な戦いを見せた実力は非常に高く評価出来ます。特にエースの
伊波翔悟は、 樟南戦こそ失点を喫しましたが ほとんどの試合を力でねじ伏せ、九州各県
にその存在感を示しました。打線も持ち前の長打力を発揮して、得点力の高さを見せ付け
ました。 ところが 決勝戦に来て深刻な不安が露呈してしまいました。

浦添商は県大会から先行逃げ切りを得意としてきたチームです。破壊力抜群の打線が序
盤に先制点を挙げるのが浦添商のペース。 後は能力の高い投手陣がきっちりと抑える事
で、勝利の形が出来上がっていました。 しかし、そのペースが崩れた時に思わぬ脆さも曝
け出してきました。不測の事態に陥ると、著しい得点力の低下が見受けられました。
浦添商の各選手は長打力にも機動力にも優れており、 バント等の小技も長けております。
それらが機能した時の得点能力の高さには痺れます。 先取点を奪った時の浦添商は、も
うほとんど無敵の様相を呈します。 だからこそ、 劣勢に立った時の豹変ぶりには信じ難い
ものがあります。 得意なはずの走塁やバントでのミスが極端に多くなり、 そして 得点圏に
走者が進んでも 適時打が出なくなります。 まるで、チーム全体が無意識の金縛り状態に
なっているかの様に・・・。
例えば今回の決勝戦、 勿論 相手の三嶋投手は高校野球界トップレベルの凄い投手でし
たが、それでも先取点を奪われる事無く伊波投手まで繋ぐ事が出来れば、少なくとも完封
される事は無かったでしょうし、三嶋君を調子付かせる事は無かったかも知れません。 実
際 何度も得点圏に走者を進めていたのですから。 まさに今回の決勝戦は、 浦添商が不
得意とする 最悪の形になってしまったのです。 もっとも 自チームに有利な流れに持って
行くのが野球の勘所と言えますし、結局負けたのですから 相手の技量が上回っていたの
です。 そして 野球の技量、それ以上に精神的な部分に最も大きな敗因があったと言える
のではないでしょうか?

しかしこういうチームは一度殻を破ると劇的に勝負強いチームに生まれ変わります。私は
これまで何度も同じ様なケースを見てきました。浦添商は、 大エースの伊波君を初めとし
た投手陣の充実ぶりは県内随一ですし、山城君ら強打者揃いの打線も豪華です。また遊
撃手の上地俊樹君を中心とした守備も非常に鍛え抜かれており、 仲里・新田らの機動力
は高校レベルを越えています。 戦力に関しては図抜けており、 非の打ち所がありません。
それに選手の練習に対する姿勢も実に見事で、たゆまぬ向上心と 厳しい努力を怠らない
チームです。 今夏、浦添商は殻を破る事が出来るのでしょうか? 私は個人的に、伊波君
世代の現チームこそ、 これまで足掻き続けてきた 同校の不安を克服できるチームだと思
っています。それにこの春においても 浦添商は何処よりも成長したチームだと感じました。
更に成長して、優れた戦力にしぶとい勝負強さを兼ね備えた 本当の強さを身に付けたニュ
ー浦添商が、この夏にもっと大きく飛躍する事を心から強く願っています。

さて センバツ優勝校の沖縄尚学ですが、 東浜君や伊古君抜きで戦った同校の今九州大
会初戦敗退に関しては、それほど深刻な問題だとは思っていません。 このチームは本当
に強いチームです。 むしろ明確な課題と多少の手応えを掴めた上に、 心理的な建て直し
を図る事が出来た非常に意義深い大会だったと思っています。

沖縄尚学には 無敵のエース・東浜君という絶対的存在がいます。 しかし東浜君以外の投
手陣に関しては、 まだまだ不安を抱えます。 近年では 一昨年の早実・斎藤君のような 特
異なケースもありますが、 夏を乗り切るには、 特に甲子園では頼れる複数の投手が必要
になってきます。 沖縄尚学においては、 これまで左腕の上原君が 東浜君との両輪として
注目されて来ましたが、 その上原投手、 センバツ以降は不安定さばかりが目に付くように
なっていました。 勿論彼なりの努力を九州大会でも見せていましたが、結果的に彼の失点
が敗戦に大きく影響しました。 変化球を低めに制球良く集めた点は 評価出来ますが、 そ
れは 彼の持味ではありません。 彼の投球は、 思いっきり腕を振る豪快さにこそ魅力を感
じます。 今の上原投手は自信喪失気味ですが、夏本番までの復活を期待しています。彼
の素質とスケール感は疑いようが無く、 豪腕・上原が居てこそ沖尚本来の投手陣でしょう。
そしてセンバツまで公式戦においては出番こそありませんでしたが、 チャレンジマッチから
九州大会にかけて、抜群の安定感を披露したのが上江洲投手。 彼こそが、沖縄尚学の九
州大会における最大の収穫だろうと思います。 東浜君並の制球力を擁し、 マウンド度胸も
兼ね備えた上江洲君は非常に実戦的な頼れる投手です。 恐らく夏の大会では、大車輪の
働きをする事になると思われます。 東浜君は言うに及ばず、 上原君が復活して上江洲君
が今春九州大会同様の投球を続ける事が出来れば、沖尚投手陣も磐石です。
沖縄尚学の抱えるもう一つの不安材料は 打線にあります。 今年の打線は、 抜群の走塁
や犠打の巧みさ等、 卒のなさに関しては長けています。 その柔軟な対応力と 局面でのし
ぶとさに関しては天下一品です。 しかし 得点能力がそれほど高い訳ではありません。 皆
器用で個人能力は高いのですが、どうしてもパワー不足を否めません。 春までは抜群の
守備と 東浜君の安定感を武器に接戦を制して来ましたが、夏は投手陣を楽にする為にも、
もっと豪快に大量得点で 相手をねじ伏せて欲しいものです。 今年の沖尚の面子を見ると、
伊古・伊志嶺・西銘・仲宗根・新垣・波照間(金城)・嶺井・高甫と、 まさしく豪華メンバー揃
いです。 その 好打者揃いの彼らに 圧倒的な破壊力が備われば、 もはや 鬼に金棒です。
今度の九州大会で 福岡工の三嶋君に14三振を喫したのは、 彼の快速球とスライダーに
付いていけない スイングの弱さが 明確な原因です。 当然 皆が それを自覚したでしょうし、
克服に向け努力するでしょう。そういう意味でも最高の相手に負けたと言えます。

センバツ優勝後の沖尚ナインは、 度重なる取材や祝勝会等で 目まぐるしい忙しさに 追わ
れていた事でしょう。 それに彼らを取り巻くファンの数も圧倒的に増えました。彼らとて、ま
だまだ高校生ですから、 知らず知らずの内に有頂天になってもおかしくありません。場合
によっては、気の緩んだ状態のまま夏本番に突入する事も懸念されていました。 しかしチ
ャレンジマッチで浦添商に叩かれ 少々目が覚めかかった所で、九州大会での完敗。それ
は沖尚ナインにとって、 実に理想的な刺激だったと思われます。 まさしく心理的な建て直
しを図るにはもってこいの敗戦でした。 このチーム、夏に向けてまだまだ強くなりそうです。


このように 今度の九州大会は、沖縄尚学・浦添商業ともに、夏へ向けての大きなターニン
グポイントになった事でしょう。 夏の選手権沖縄大会まであと2ヶ月もありません。本番は、
もうすぐそこまで来ています。 沖縄県内の各チームもいずれ劣らぬ強豪揃いで、 それぞ
れが この夏に向けて猛練習に励んでいるでしょう。 しかし それでも今夏は、 沖縄尚学と
浦添商業の2校を軸に展開される事は間違い無いと思います。 両校が再び激しい火花を
散らし、そして沖縄高校野球史に大きく輝く熱闘を演じる事を期待します。


------------------------------------------------------------------------


春季九州高校野球・組合せと勝ち上がり
http://neogaia.ti-da.net/e2066280.html


第122回九州地区高校野球大会 県勢、本日の結果(最終日)
http://neogaia.ti-da.net/e2086420.html

第122回九州地区高校野球大会 県勢、本日の結果(四日目)
http://neogaia.ti-da.net/e2084489.html

第122回九州地区高校野球大会 県勢、本日の結果(三日目)
http://neogaia.ti-da.net/e2081135.html

第122回九州地区高校野球大会 県勢、本日の結果(二日目)
http://neogaia.ti-da.net/e2079115.html

第122回九州地区高校野球大会 県勢、本日の結果(初日)
http://neogaia.ti-da.net/e2077289.html


------------------------------------------------------------------------


沖縄高校野球の話題なら!
ごーやーどっとネット掲示板「高校野球」
試合画像・詳細はこちらで!
@北谷球場さん の 「沖縄の高校野球 」


------------------------------------------------------------------------



同じカテゴリー(九州高校野球)の記事

Posted by neogaia at 23:48 │九州高校野球






この記事へのコメント
neogaiaさん
お久しぶりです。第122回九州地区高校野球大会 (春季高校野球
九州大会)。まずは浦添商、準優勝おめでとう!
neogaiaさんが言う通り浦添商は全国の高校と比較しても、投打、機動力等、総合力ではまさに理想的なチームです。故に決勝戦での完封負けは、
やはり浦添商の必勝パターンである先行逃げ切りができず、相手に先行されて、焦りと消極的なプレイで結果を出せないと言う、強豪校ならではの弱点が見られました。が、今年の浦添商は必ずその弱点を克服してくれるはずです!
冲尚は初戦敗退でしたが、浦添商とのチャレンジマッチと、この九州大会は東浜を抜いた投手陣で、どこまで戦えるのか?と言う戦力の確認と上原亘への責任感、自信、期待を含めたNew沖尚の挑戦を感じました。沖尚もかなり強いです。上原亘の復調と打線強化の課題をクリアーすればまさに無敵でしょう。
優勝した福岡工も記事等で読む限り、とてもチームワークの良い実戦慣れした強い印象を持ちました。エース三嶋は初戦の清峰戦で15奪三振、沖尚戦14奪三振、浦添商戦でも確か11奪三振。素晴らしいとしか言えませんが、そんな投手から何度も得点のチャンスを得ていた浦添商は凄い。そして実際に3点を奪った沖尚はやはり強い! そんな強い浦添商、沖尚に灸を据えてくれた福岡工には感謝です。
今年の沖縄県の高校野球はレベルが高いです。その中でも浦添商、沖尚はかなりの高レベルで嬉しい反面、非常にもったいない気がするのは私だけでしょうか?是非、『選抜優勝校枠』を設けて、その県からの2校出場を許可してくれませんかね〜(笑)&(悔)。
Posted by はなりん at 2008年04月30日 03:17
>はなりんさん


こんばんは。コメントありがとうございます。
そして返信が遅れた事をお詫び申し上げます。

今となってはだいぶ前の話になってしまいましたが、
今度も九州大会は、浦商・沖尚ともに価値ある大会でしたね。
それなりの結果が出せて、そして課題もはっきりしたという点で。

浦商は、仰るように投攻守走ともに優れた素晴らしいチームです。
あとはいかに実戦力を身につけるかでしょう。
まだまだ細かい駆け引き等、ゲームの流れを呼び寄せる技術に
多くの改善の余地が見られます。
先の愛媛・沖縄交流試合での対済美戦では、そういった課題が、
はっきりと露呈したと思います。
ただこれから夏本番に向けて、課題も改善されてもっともっと
強いチームへと成長すると思いますので、とても楽しみです。

沖尚は誰もが思うように、東浜君以外の投手陣の整備と、
打線の強化が図れれば、まさに無敵ですよね。
投手陣に関しては、やはり上原亘君の復調が鍵ですね・・・

とにかく沖尚・浦商ともに評判の強さを持ちながらも、
まだまだ改善の余地が多く残された成長途上のチームです。
この両チームが夏本番でどれだけ強くなっているのか楽しみです。

それにしても、福岡工・三嶋君には驚きましたね!
名前も聞いた事の無い投手でしたが、圧倒的でした。
やはり、まだまだ全国は、いや九州は広いという事ですね。
Posted by neogaianeogaia at 2008年05月13日 23:12